暑気払いの菓子
金沢には7月1日に氷室饅頭を贈答する習慣がある。このルーツは、
天正十二年(1584)6月朔日((ついたち:現在の七月一日)、倉谷村の
大鋸柮人役(おおのこぎりそまびとやく)が初代加賀藩主前田利家公に氷を
献上したことにさかのぼる。『加賀能文庫』の『真偽一統志』によれば、
利家公は褒美として青銅二貫分を与えたという。
以来百年以上、この慣わしが続いたが、五代藩主綱紀公の元禄五年(1692)を
もって、御用を解かれた。金沢城内の玉泉院丸露地に戸室石製の氷室が造られた
ため、山中より氷を運ぶ必要がなくなったのである。
江戸においても、六月朔日、暑気払い用の箱詰め氷を、加賀藩主から将軍家に
献上することが恒例となった。俗説では金沢より早馬で運んだとされているが、
恐らく本郷邸の氷室に貯蔵されていたものだろう。この氷を将軍が下賜したことに
習い、庶民は寒の水で製した餅を氷に見立てて食した。むろん金沢でも同様で
あったに違いない。
この習慣に着想を得て、金沢・下松原町の新保屋が明治中ごろ、氷室饅頭の名で
白饅頭を売り出したところ、評判を取り、他の菓子屋もこぞって扱うようになった。
当時は夏の一ヶ月間ほど売っていたようだ。
最も気の張る相手には、重引に饅頭を詰め、袱紗を掛け、紋入りの風呂敷に包んで、
主人の代理が供連れで届けるのが、金沢の正式な流儀である。
北國新聞 出版局 月刊「アクタス」より
【加賀ゆかりの菓子について】
この菓子は、加賀の菓子文化の歴史を再現するため特別に作られました。
そのため販売は一切しておりませんのでご了承くださいませ。記・加賀百萬石 【加賀ゆかりの菓子】
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